キーワードは戦闘力。あくなき探究心を持ち、進化し続けるProvidence
9年間に渡って積み上げたものがProvidence Guitarという形で世に送り出される。その経緯や魅力についてProvidence Guitarの根幹であるパシフィクス代表 奥野氏、ギターテック 志村氏のお二方に生の声を聞かせていただきました。
鼎談
(株)パシフィクス 代表取締役
奥野 猛
×
ギターテック
志村 昭三
×
MUSICLAND KEY
青木 隆通
(L to R)
MUSIC LAND 青木
ギターテック 志村 氏
(株)パシフィクス 奥野 氏
音というものをトータルに追求していく上で竿が必要だと思った
-
青木(以下、青):今日はよろしくお願いします。
-
奥野(以下、奥):よろしくお願いします。
-
志村(以下、志):よろしくお願いします。
-
青:まずはProvidence Guitar立ち上げの経緯を教えていただけますか?
-
奥:始まりはかれこれ9年ほど前でしょうか。Providenceというブランドはケーブルやエフェクター等の縁の下の力持ち的なものしかラインナップしていない。音というものを入口も最後も含めてトータルに追求していく上で竿(ギターやベースの意)が必要だと思ったのが発端です。
そう言いながらも、そこからいざやってみようと思ったらどういう特徴があるというのが分からなくて、当てずっぽうじゃないですけど、まず「良いもの」を作ろうということをやって第1号を作った。それが何を隠そう“今 剛さん”が今でも使用している「Deceiver DP-01」というモデルなんです。実は試作品を僕等が見る前に“今 剛さん”に渡ってしまったというところから始まっちゃうんですね。
-
青:そうなんですか!?
-
奥:そうなんですよ。色々な経緯があって……。ここではお話出来ませんけど(笑)。
-
青:では、また次の機会に(笑)。それではお話の続きを。
-
奥:はい。“今さん”がギターを認めて使ってくれたことで「良いもの」を作れる裏付けが僕等にはあるということが分かったんです。そこから試行錯誤の9年が始まる訳なんですね。世の中では色々なビルダーさんが色々な工夫をしてギターを作っていて、そこに道具として、あるいは商品として、みなさんに納得していただくにはどうしたら良いかと考えました。トラッドなモデルのコピーもやりましたし、オリジナルデザインもやった。色々なことを試行錯誤して作業してきて、ようやく迷いが取れたと言うか、原点に帰って作ったのがProvidenceブランド第一号機である“今さん”シグネイチャー「sD-102RVS」なんです。まだ迷ってる途中でもある……、いや、模索しているという方が正しいかな。
-
青:ここで終了ではなく、ここからまださらに進化するということですよね?
-
奥:次にもっと進化する為の途中経過であるという言い方が良いでしょうね。
志村さんとは知ってる仲だし、ダンカン時代からの腕前を見ていたので、お任せしておけば安心だった
-
青:今回は志村さんが組み込みから全部やっている?
-
志:組み込みというよりは最終的なセットアップですね。
-
奥:途中でアドバイスをしていただきながらも最終的なセットアップと調整。という役割ですよね。
-
青:志村さんとこうやって仕事をすることになったきっかけというのは、やっぱり“今さん”がDeceiverを使っているということからなんですか?
-
奥:それはふたつあります。まずひとつは僕がパシフィクスという会社を作る前からの深い古い付き合いで、個人的な繋がりはずっとある仲間であったこと。もうひとつはやはり“今さん”。僕等が知らないうちに志村さんが現場でDeceiverの調整をやっていたということです。
-
志:僕が一番始めにダンカンギターのプロデュースをしていた時から、“今さん”が所有するギターは僕がすべてセットアップしていたからね。
-
奥:僕等から依頼とかはしていないのに、知らないところで志村さんが調整していたと。
-
青:そういう経緯があったんですね。
-
奥:“今さん”にはDeceiver時代から相当な本数のギターが渡っていて、それらはみんな志村さんがセットアップしていたんです。だから、改めてProvidenceというブランドで考え直そうという時に、せっかくなら一緒にやりましょうって。
-
志:だから話は早かったね。
-
青:このProvidenceギターの前に助走があるということですね。
-
志:まあ、助走の方が当然長い訳。
-
奥:志村さんとの正式な仕事というのは今回のProvidence Guitarからなんだけども、その前から志村さんがやってたことは打ち合わせも何もなかったんですよね。僕等としても何も言わなかったのは何故なのかって言うと、知ってる仲だし、ダンカン時代からの腕前を見ていたので、お任せしておけば安心だった。僕等が“今さん”に渡した時よりギターが良くなっているのは知っていた訳です(笑)。
コンセプトはストレスがなく最高の道具であること
-
青:では、Providence Guitarのコンセプトを教えていただけますか?
-
奥:原点は「Providenceというブランドが何か」っていうところにあるんです。Providenceというブランドの哲学としてひとつはプレイヤーの方が演奏に集中していただく為にあらゆるストレスを排除するということ。もうひとつは変わっていく音楽シーンにあっても、その時代で一番最高の「音楽の道具」の代名詞でありたいということ。最後に音声信号というものを正しい音声信号、良い電気信号、それに伴った性能や機能というものが正しくなければならないというのがある。
だからProvidenceエフェクターは壊れない、ノイズが少ないっていうのが定評でしょ?ただ気持ちの良い音が出るだけじゃなくて、乗っちゃいけないノイズは絶対に入れないとか、ツアーを回る時に使っても壊れないとか、良い道具である理由をちゃんと付けてるんです。それらをトータルに提案して、追求していくにはエフェクターやケーブルだけじゃなくて竿も僕等が作る義務があると思っていたし、やりたいと思っていたところもある。本当は最初にそれをやらなければいけなかったんだけれど(笑)。
だから、ギターもカッコいいカッコワルいの前に、ブランドコンセプトと同様にストレスがなく最高の道具であることですね。音楽に関わる人間からすると、一番基本になるのはエフェクターもケーブルもアンプもみんな大事だけど、まずは基本になる「音源」であるギターという竿が気持ち良いか悪いかという、そういうことから始まる訳だから、それをやらないことには提案出来ない。だから、やっぱり僕等には作る義務があるという考え方から始まったという風に思っていただければと思います。
-
青:今ご説明いただいたことがコンセプトであり、奥野さんのギターに対しての考えなんですね。
-
奥:それに加えて、志村さんと一緒に作った合い言葉があって「武器」であるということ。
-
青:武器ですか。
-
奥:さらに「戦闘力」という言葉をキーワードにしてます。
-
青:戦闘力?
-
奥:そう、戦闘力。いわゆるギタリストにとってのステージやレコーディングというのは、言葉を変えればある意味「闘って新しい音楽を作ろう」とか自己表現をしようとかしている場でしょ?その場において最高の道具であること=「戦闘力が高い」と比喩しています。これが志村さんと僕等の間にあるキーワードで、そういうギターを追求していこうという考えなんです。
-
青:いわゆるトラッドなものを現代に蘇らせたとか、そういう次元のものではなくて、とにかく純粋に音楽をやる上で最高の道具であって、ステージが闘いの場だとすれば、戦闘力が高いものということですね。
-
奥:ヴィンテージ的な追求ではなくてコンテンポラリーなもの、常にその時代にあったものです。だから、狙ってるところがヴィンテージ風なものではない。
-
青:最終系でもなく、完成系でもない、まだまだ進化するものであるということもポイントなんですよね。
-
奥:おっしゃる通り。
-
志:パシフィクスという会社がProvidenceブランドを扱っていく上において、パシフィクスでなければ出来ないProvidence Guitarっていうのを作りたいよね。極端に言うならProvidenceのエフェクターが全部入ってるような。
でも、バイタライザーはパシフィクスならではの機能だよね。僕も初めはギターをアクティブ化するのはどうなの?って思ってた。やっぱりギターは材やパーツとか、切削、組み込み、それらがどういう風にマッチするかっていうのが自分のイメージにある。バイタライザー付きのものを弾いた時に、衝撃的なものではないんだけど、考えてみると他に無かったものであり、これがなかなか良かった。こういったところの拘りっていうのは、Providenceのケーブルやエフェクターに携わる執念というか、その感覚があるから出来ること。あれだけ掘り下げていくと何か見えてくるよね。
ギターも同じで、何年か前に関わった時は「本当にこれでいいのかな?」って気がしてたのが、段々近付いてくる。現場から自由な発言やいろんなアイディアが出て来て、それを奥野さんが真摯に受け止めてやっていくからそうなる。だから、僕もギターのことについてはもっともっと底上げしたい。材はもちろん、フレットひとつにしてもこういうフレットを打っていきたいよねとか、こういう風にやりたいねっていうのをProvidenceでしか出来ないことを実現していきたい。それを例えば“今さん”とかにテストしてもらって「いいんじゃない?」って言われたらGOするとか。彼らの意見は率直だからね。
-
奥:やっぱり“今さん”とは運命的な出会いと言っても過言じゃないよね。ギターっていうのはエフェクターみたいにいくら機能ばかりを追求してもダメ。感性や芸術性もそこに伴う、いわゆるオシャレなものでもあるから、カッコ良くなければいけないし、杢目も綺麗な方が良いとか色々ある。そこで"今さん"との出会いが何故良かったかと言うと、当然プレイヤーとしても最高だし、色々なギターを弾かれた経験もある。"今さん"の仕事柄として自分のプロジェクトだけじゃなく、色々なクライアントに合わせたプレイスタイルで答えていくということをやってる。思い入れだけじゃなく道具を道具として使える冷静さを持ち合わせている特別な存在だと思うんですよね。だからこそ僕等の考えが受け入れられたのではないかと思います。
僕等が持っている電気的な考え方のアドバンテージと、志村さんのギターに対してのテクニックとセンス等のノウハウ、それをミックスして体現しているのが今の形なんです。「ギターってこういうもんだよ」っていうギタリストの方から始めていたら、おそらく受け入れられていないと思います。
-
青:それはそうでしょうね。
-
奥:ケーブル作りに関しても、こうやって志村さんと関わって改めて分かったことがあるんです。良い素材を使えば良いっていうことではないと。ギターケーブルに合った良いケーブルとはなんぞやと。電線的に言うとレベルが低いものかもしれないけど、ギターには丁度良いっていうのも必要。昔の僕等の考え方ではハイファイなケーブルの方が良いんじゃないかって考えていたこともあるけど、それだけではないと。
-
青:それは志村さんと出会ったことで出来た新しい考えなんですね。
-
志:僕はSSギターを立ち上げ、ミュージシャンをやり、サウンドテックもやり、ツアーも行き、奥野さんはアンプ、エフェクター、ケーブル、とお互いに違うものをやっていたので、昔はそんなにガチでやろうという感じではなかった。でも、今はガチだよね。
-
奥:キーワードとしてはさっき言った通り「最高の道具」であること。戦闘力が高く、良い信号周り、性能として良いものである。その上でギターであるからこそのヒューマニティというか、芸術性というか、あの不完全さをどうやるかっていうのが、他社にない新しい切り口なんじゃないかなって。今話してて気が付きました。
-
一同:爆笑
-
奥:良いギターを作る人はいっぱい居ると思う。良いエフェクターを作る人も居るでしょう。だけど、道具としてもギターとしても両立するようなアプローチをするというのは、多分ゼロじゃないでしょうけど今までそうは無いと思う。それは僕らがやるべきことじゃないかな。
-
青:販売している立場の人間として見ると、考え方が柔軟であって、良い意味で右にも左にもいけるという特徴があるなって思います。「これはこうじゃ無きゃダメだ!」というブランドが多いじゃないですか。
-
志:作る人が主張するよね。
-
青:「これはこういう風に作ってる」から「こう」だと。これを好きな人は買ってくれ。というスタンス。これがベストだというのがあると思うんですけど、それが良い意味でProvidenceは感じられない。道具は使う人次第じゃないですか。だから、最高の道具だっていうのはすごく分かります。先程志村さんが仰っていたみたいに、パシフィクスさんがやっているProvidenceだから出来る内容ですよね。
-
奥: 改めて認識させていただきました(笑)。
“今さん”に受け入れられるということは相当に高いハードルをクリア出来てるという裏付け
-
志:“今さん”の話なんだけど、彼は信頼あるものがひとつあると、そこをあまり揺らがさない傾向がある。
例えば今回のsD-102RVSのペグ。当初はGOTOHのMG-Tシステムを採用する予定だった。僕は実際にGOTOHさんで良く話を聞いて熟知しているGOTOHに変えたんです。そして“今さん”に「新しいペグ付けたよ!」って渡した。でも、“今さん”から次に電話があった時「志村、シュパーゼルに変えてくれる?」って……。えぇーーーーっ!ってなりましたよ。ちゃんと理由も説明したんだけど、本人は「いや、シュパーゼルの方が出音のダイレクト感があるよ」って。確かに、言われてみればそうなんだよね。シュパーゼルの元々の機構が他とは違うっていうこともあって、“今さん”は理屈じゃなくて感覚で音を分かってたんだよね。だから、弦もピックもほとんど銘柄は変えてない。ずっと同じ物を使ってる。
-
奥:面白いですね。ギターに関してはバイタライザーを常にONですもんね。今さんは。
-
志:そうそう。
-
奥:載してるJ.M Rolphのピックアップも同じですね。実はあれってタップ付きなんて仕様は元々ないんです。“今さん”に言われたからお願いして作ってもらったんです。いわゆる“今さん”仕様なんですよ。だから、なかなか入手が難しいんですけどね。それがまた、最近導入したFractal Audioシステムにすごくマッチングが良いらしいんですよ。感性で絶対にビビッとくるものがすごい細かいところがあるんで、その感性の部分に加えて、“今さん”メカにめちゃくちゃ詳しいから。“今さん”恐ろしくてね、下手なこと言えないんですよ。本当にすっごい詳しいから!電源なんかも。
-
志:電源周りはすごいよ!
-
奥:また、すごい勉強家なんですよね。例えば星に興味を持つと天体のこともすごい詳しくなる、とかそういう人だから。
-
青:突き詰めちゃう人なんですね。
-
奥:だから、「奥野くん、これこうなの?」って聞かれて「やばっ、これ分からないな」ってなったら、生半可な返事しちゃダメなんですよ。「僕分からないんで、ちょっと確認します」とか正直にやらないと、間違ったことになったらまずいから。“今さん”の方が知ってるんだもん(笑)。そういう知識を持ちつつ、感性がすごく鋭い人がこういう細かいハードウェアひとつの話とか、実際に耳や体で絶対納得しているものがある。ギタリストにありがちな、杢目がどうとか言う感覚じゃない。
-
志:僕等は注意しなくちゃいけないね。“今さん”に渡すものは本当にしっかりしたものでなければならない。それにしてもFractal Audioにしてからバイタライザー相当気に入ってるね。
-
奥:バイタライザーとJ.M Rolphの組み合わせがぴったりみたい。ちょっと余談というか、質問と全然違う方向になっちゃいましたけど(笑)。
-
青:いやいや、全然大丈夫です。逆にこんな話はこういうところでしか聞けないから、これを見てる人からすると楽しいですよね。
-
奥:やっぱり関わってるから知ってる話ですね。
-
青:“今さん”の話なんかは一番期待してみなさん見るでしょうからね。特に今回は“今さん”の正式なシグネイチャーが出る訳じゃないですか。実際にどうなんだろうって思う方は多いでしょうからね。“今さん”みたいに理論的に詳しい人が感覚的に音を最終的に捉えて、正否を付けた結果でシグネイチャーとして発売する。これは道具としても使える、戦闘力が高いという大きな証明でもありますよね。これだけ業界で認められてる方が判子を押すというお墨付き。
-
奥:そう、ちゃんと本人にご了承頂いてます。
-
青:それは大きいですよね。
-
奥:でも、僕等も怖いですよ。怒るとかそういう怖さじゃなくて、“今さん”て何でも見抜いているような人だから。底が深くて、感性が鋭くて、上手い。チューニングやピッチなんか一番ウルサいとこですもんね。
-
志:それは僕とタッグ組んでる時はやっぱり、ピッチは物凄い気にするよね。
-
奥:チューニングがおかしい時は一曲の間にギター持ち替えちゃうくらいですからね。
-
志:弦を変える回数も物凄い頻繁だし。
-
奥:だから、“今さん”に受け入れられるということは緊張感がある反面、青木さんが言ってくれた「戦闘力が高いと証明されてる」ということがある。まさしくその通りで、ほぼメインでずっと使ってくれているから。僕たちのテーマにある戦闘力とか武器とかにおいて考えた時には、相当に高いハードルをクリア出来てる内容になってるという裏付けだと思いますね。でも、やっぱりビビりながら持ってきますけど(笑)。
-
志:でも、sD-102RVSを全色持っていった時は“今さん”も喜んでたもんね。
-
奥:僕ね、どれか1本だけが選ばれるんだと思ってたんですよ。
-
志:それが「みんな置いてって~」だって(笑)。
-
奥:本当、全部置いてけですもんね(笑)。
-
志:ローディーも「全部あってもいいですよね?今さん」とか言うし、本人も「うん、いいんじゃない?チューニング違う曲もあるし」とか言って。
-
奥:“今さん”てギターに関しては悪い意味じゃなくてすごくドライなんですよね。すごく合理的。現場毎にセットを分けていらっしゃるし、どういうシーンでどういうギターが使い易いっていう判断を冷静にしてる。はっきり言って良い意味で義理も人情もない感じの使い方をする(笑)。
-
青:純粋に使えるものを使うっていうスタンスですね。
-
奥:こういう風な弾き易さにはこれが合ってるだとか、この音にはこれが合ってるとか、プロとして現場にあった道具として本当に合理的な判断でギター選んでますから。その結果使用頻度が高いってことは、相当すごいということだと僕は思う。手前味噌な感じだけど、実際そうだと思います。情も何もないですよ。「あいつらがんばってるから持ってやろう」とかそういうことはない(笑)。
-
志:まったくない(笑)。
-
青:まあまあ、それだけ音にストイックということですよね。
-
志:そうそう、そういういこと。
-
青:それが自分の思ってるもの、欲しい音を出せる道具しか使わないってことですもんね。
-
奥:あくまでも道具ですからね。
Providenceでなければ出来ないことをやっちゃいたい
-
志:あのね、何が違うかって言うとね、質が全然違う。音の質が。物凄く行き届いてる。それは良いケーブルをこういうところに使って、ここはこうで、という考え方がひとつある。ギターの音でアンバランスが嫌だって言うね。
-
奥:バランス信号、アンバランス信号のことね。
-
志:バランス信号にしたいが為にああいうセットになった訳。アンバランスのところはアンバランスのところで作る能力っていうのはよく分かってる。
一番の音色を決めるところはアンプとプリアンプ。ところが、“今さん”の真骨頂っていうのはエフェクターの処理な訳です。ディレイとコーラスと空間系のもの、ディストーションというものにはあまり興味がない訳。アンプの歪みで良い訳ですよ。それからアンバランスで送られた信号をバランス信号で戻して、バランスでいかに飾り付けをするか、そこのクオリティを“今さん”は自分で上げてる訳。だから、バランス信号には物凄く神経使ってる。バランス信号のところのケーブルはアクロテックケーブルを使ったりね、ミキサーも自作のミキサーを作ってもらって、あれなんか売り出したら200万とかする訳。でも、それ以上の機能があって、安くても良い物であれば使っちゃう訳。たとえばマッキーのラインのミキサーを使っちゃったり、それが良ければ全然OKだと。
今回のFractal Audioの話も“今さん”の探し方があって、中の中にあるものを見つけていって、それがどういう機能を持ってるのかっていうことを探るのが大好きな訳です。Fractal Audioは“今さん”が2週間近くこもって自分のデータを作ったということは、相当Fractal Audioが良いってことなんだよね。“今さん”が中を見抜いちゃってる。こりゃ良いって。今までみたいにデッカいラックを持っていかなくても、これ1個とサブ1個、6Uだけ。あとは足下で終わり。
-
奥:あれって面白いのが、最初にうちのコンプ使ってるじゃないですか。
-
志:そう!一番最初にね。これが良いのよ。
-
奥: Velvet Compね。
-
志:ブースターだから“今さん”にとって。あのふたつは欠かせないのよ。あれがもう自分のブースト力。ちょっと一杯ひっかける感覚。そこの質っていうのは、昔から付き合ってて思うのは妥協しないっていうかさ、例えば、酒を飲んでるとすると、ただアルコールであれば良いって考えじゃない。やっぱりドンペリなんだっていうね。
-
青:あぁ、Yさんに聞きましたね(笑)。
-
志:“今さん”はTシャツとジーパンで1年中過ごしてる訳じゃない。その格好してても、全然中身もそうだということではないってことです。つまり、考えている、思っている、ゾーンに描いている、音のクオリティが物凄く高いレベルにあるってこと。
-
奥:だから、“今さん”の厳しい条件をクリア出来る能力を持っていろんなスタイルのアーティストの方に一番最適なものを用意していくのが、これからの僕等の課題である。いろんな戦闘がある訳で、戦闘機もあれば戦車もある、そういうことだと思うんですよね。なにも“今さん”だけに合えば良いって訳じゃないし、いろんな方が居る訳だし、いろんなスタイルがある。いろんな求めるものも違う訳だから、そういうことが今後僕等のギターの骨組みになるとこなんだろうな。それに対してそれに見合ったデザインがついてきたり、色がついてきたりなんでしょうね。
それこそ、Providenceでなければ出来ないことをやっちゃいたいっていうのはありますよね。
-
青:話がそれでまとまっちゃいましたね。コンセプト、志村さんが入ったことで変わること、繋がりの深い“今さん”がどういう形でそういう風になったのか、っていうのはみんな気になるところですからね。
-
奥:ちなみに“今さん”が使っているDP-01はProvidence、Deceiverの歴史の中で本当に一番最初のギター。
-
志:“今さん”が使っている第一号のDP-01はフレットを一度交換して、ピックアップがハウるんでロウ漬けした、たったそれだけ。
-
青:第一号をずっと使ってるっていうのはちょっとビックリですね。
-
奥:余程気に入ってくれているんでしょうね。
-
青:本当に始まりの始まりですもんね。その進化系がまたProvidenceという形で新しくなってきて、それでも一番最初のDP-01も“今さん”はまだ現役バリバリで使っている。
-
志:多分色とかも全部すごい気に入ってるだろうと思う。黒、紫、青、シルバー、そして、赤も揃ってるから。
-
奥:“今さん”は色に関しても大変でね。最初は適当に赤を作ったんだけど、実はその間にいろんなギター渡してるんですよ。その中でDeceiver時代の黒ラメを作った時の経緯で言うと、“今さん”に何色作りましょうか?って言ったんだけど、答えが来ないんですよ。3ヶ月くらい。そのうち、じゃあラメでもやってみようかってなったんです。それで黒ラメ、赤ラメって作ったんですよね。赤ラメの仕様というのは構造的に無理矢理“今さん”のリクエストに答えてるから、製品にするにはちょっと難しいんですよ。わざとトレモロを使えなくしてるやつなんで。だから、商品化をあえてしていないんです。あれやると、作る方も大変だし、売る方もトラブルの元なので。
-
志:あれはね、奥野さん、こういう経緯があった訳。実はバリータに同じことをやったのね。それは僕のアイディアなの。ところが、赤ラメは間違えてる。ブリッジの頭を使うのはウィルキンソンじゃなくて、フロイドローズの上のプレートだけをボディに直接付けちゃえって言った訳。
-
奥:それが“今さん”を通ったら、ウィルキンソンになっちゃったんだ。
-
志:あれファインチューナーがないから良くないって言ったんだ。フロイドローズだったら、弦を通すのはテレキャスターみたいに後ろから通して、プレートに穴を空けてやれば音良いから。
-
奥:それじゃ次のモデルそれで作っちゃおっか!(笑)。
-
青:それ良いですね(笑)。
-
奥:色の話に戻るけど、今回Providence Guitarを作る時にまた“今さん”3ヶ月だなって思った(笑)。
-
青:(笑)。
-
奥:面白いのが、“今さん”てこのギターにはこのストラップていうのがあるんですよね。ジョディヘッドを使ってるんですよ。そういう感じのセンスはウルサいと思います。神経細やかで、宣伝写真なんかを撮る時でも、最初はモスグリーンかなんかのTシャツ着てたのに、白いTシャツを持って来てくれてるんですよ。ギターを持ったポーズを取った写真撮るでしょ?で、その時にちゃんと着替えてくれるの。白ならいろんなギターの色が映えるでしょ?って。
僕がセットアップしてることが誇りでもあるし、それが真骨頂(志村)
-
青:大分話しが盛り上がったところで、最後にProvidence Guitarの魅力を知るにはここを見てくれというのを教えていただけますか?
-
志:僕がセットアップしてるということかな。誇りでもあるし、それが真骨頂。それが“今さん”の音質に拘るところだから。ハイファイでもないんだけれども、すごくスムースな音だし、クリアでナチュラルな音だし、そういうところかな。
-
奥:僕も同じで志村さんの仕込みとかセットアップというところの良さを実感して欲しい。
何度も言うけど、戦闘力のある道具として見た目だけではなくて、やっぱり自分が演奏するシーン、レコーディングでもライブでも、はたまたYoutubeに上げるんでもいいんだけど、そういう時に本当にストレスのない、違和感のない物であることを実感していただきたい。そういうことを突き詰めていって、ギターだからこそあるオシャレさや、カッコ良さやそういうものを加味して今後やっていくので、期待して欲しいです。
-
青:パシフィクスがやるProvidenceだからこそのギター作りっていうところですよね。
-
奥:普通はルシアーさんやユーザーさんの経験や考え方っていうのを体現して、見た目や確固たる機能を作っていくのがギターでしょ。Providenceの場合はちょっと違うアプローチがあって、僕はプロデューサーなんですよね。プロデューサーが一流の技術者と一緒に組んで、道具を作っていくって違うアプローチでもある訳ですよ。それにさっき青木さんが言ってくれたみたいに頑固さはないんですよ。
-
志:僕もそういう人間じゃないもんね。
-
奥:変な偏見がないんですよ。そういうところの自由さ。ギターらしさっていうところは最低限ちゃんと踏まえた上で、僕等は新しい事、今までにないアプローチをしていく。それを楽しんでくれたらいいんじゃないかな。
-
志:それともうひとつ、大事な点は本当にシグネイチャーモデルとして水準も高いけれども、“今さん”が言った一番にチョイスしたものを忠実に再現してある。“今さん”はね、音質に関しての完璧主義な言わばナルシストなのだからバランス信号じゃなきゃダメ。バランスで組んでるっていうことを知らなければ、あの“今さん”のラックは理解出来ない訳。Fractal Audioを使う、エフェクターを使うっていうことが“今さん”の音だっていうのは間違ってるんです。“今さん”は自分の音をハイファイだなんて思ってないんですよ。
-
奥:もっと言うと、あのピックの割れ方考えたら、あの弾き方がキモなんですよね。すーっごいよ!
-
志:普通弦切るのに、ピックが割れるんだからね。普通のおにぎり型がね。
-
青:へ~。
-
志:ずーーっとあればっかりだよ。おにぎり型のミディアム。初めギブソンのピックが一番良くて、あれがちょっと柔らかくて良かったんだよ。ちょっと粘りがあって。今はghsの赤いやつ使ってるけど。
-
奥:あの強力なピッキングと、あの手の厚さ、形、握り、それとあのシステムの考え方でやってること、総合的にやんなきゃ“今さん”の音は出ないですよね。
-
志:だって、ピッキングの熱でピックガードにピックの赤いヤツがついちゃうんだよ。なんでこんな赤い傷が付くのかなって考えたら、あの16分とかでカッティングする時に熱でついちゃうんだよね。
-
奥:でもね、見たらしなやかなんですよ。しなやかなんだけど相当強力なんですよね。
-
青:でも、その音を出すにもまずはsD-102RVSやDP-01JM/59Dを使わないとダメですよね(笑)。
-
奥&志:そうですね(笑)。
-
青:ということで、今日はギターのことだけじゃなく、色々なお話を聞かせていただき(笑)、ありがとうございました。